南スーダン通信 A Letter from the Ambassador of Japan to South Sudan

平成27年6月29日

第3回 南スーダンの政府と国民に歓迎されるJICAの支援

 南スーダンに着任して早くも2か月が過ぎました。5月下旬に信任状捧呈式を終えた後,各省大臣への表敬訪問を行いながら,この新しい国の平和と発展に向けての指導者のビジョンに耳を傾けています。大臣や同席する幹部の多くはこれまでJICAの支援に様々な形で関わっており,研修で訪日した人にも会いました。彼らから,JICAの支援に対する高い評価と将来への期待の声を日々聞いています。
 
 最も多くの人から感謝されるのは,ナイル架橋「フリーダム・ブリッジ」の支援です。本年3月,大統領の臨席のもと,自衛隊施設隊の文化行事も交えて盛大な起工式が行われました。ジュバ市の中心部をナイル川の対岸と結ぶ橋は,市民にとって身近で不可欠な存在ですが,現在ある唯一の橋は1974年に作られたもので,荷重容量が小さくボトルネックになっています。新しい橋は2018年6月に完成予定で,当地の人たちは心待ちにしています。
 ジュバ市内の水供給プロジェクトも,国内紛争で一時停止していましたが,本年2月に再開しました。ナイル川から採取した水を浄水場で処理し,高台の貯水塔経由で市内全域にタンク車と公共水栓で供給するもので,2017年夏に完成予定です。内水物流の拠点となるジュバ河川港建設も,今月調査チームが来訪し,2017年夏の完成に向けて,再開準備が着々と進められています。
 インフラは,経済活動や日常生活の基盤となる重要な財産です。また,建設工事の過程で人材育成にも貢献します。「人が橋を作り,橋が人を作る」ということばがありますが,ナイル架橋では,100人の南スーダン人が日々働きながら技術指導を受けています。日本として,南スーダンのインフラ整備に引き続き貢献していく考えです。


フリーダム・ブリッジの起工式 ヌヌ・クンバ水資源大臣表敬後の記者取材
フリーダム・ブリッジの起工式 ヌヌ・クンバ水資源大臣表敬後の記者取材

 農業への支援も,各方面から高い評価を受けています。南スーダンは国家収入の約98%を石油収入に依存していますが,肥沃な土地と豊富な水に恵まれているので,代替産業としての農業の潜在性は極めて高いものがあります。新たな国づくりに向けて,南スーダン政府自身による農業と灌漑の25年間の開発基本計画(包括的農業開発マスタープラン(CAMP)・灌漑開発マスタープラン(IDMP))策定をJICAは支援してきました。両計画はこの夏にも完成し,全国での実施段階に移ります。また,国際機関や他国の援助機関とも幅広く連携を進めています。農業による食糧・収入の確保とコミュニティの自立は,平和の定着にも大きく役立つものです。
 
CAMP策定関係閣僚委員会会合 CAMP策定タスクチームの作業
CAMP策定関係閣僚委員会会合 CAMP策定タスクチームの作業

 保健・教育・職業訓練分野での基礎生活と生計向上の支援も大きな柱です。南スーダンは,世界で最も妊産婦死亡率が高い国の一つです。JICAは保健省と緊密に協議を行い,様々な経歴を持つ医療・保健関係者を有効活用するための人材データベース作りや,国立ジュバ教育病院の看護師助産師学校設立を支援してきました。保健大臣をJICA代表と一緒に表敬した際には,関係者が一堂に会し,これらの支援への謝意が表明されました。
 また,理数科教育の質を着実に向上するために,各州での教員研修実施を支援してきました。教育大臣をJICA代表と一緒に表敬した際には,その足でJICAのプロジェクト事務所に案内され,翌週には日本が支援したジュバ市内の教員研修所の共同視察に招かれて,先方の熱意に強い印象を受けました。
 職業訓練も重要です。内戦の影響で人材育成が進まなかったため,近隣国からの労働者が多く就労している一方、必要な技能を持たない南スーダン人はなかなか就職の機会に恵まれません。また,除隊した兵士や少年兵の社会復帰も課題です。日本はジュバ職業訓練センターを中核として,職業訓練政策立案・実施に関する様々な支援を続け,最近も自衛隊施設隊との連携による自動車整備工研修を実施したところです(第1回参照)。

 
ガイ・コク保健大臣への表敬 ジュバ近郊の教員養成所の視察
ガイ・コク保健大臣への表敬 ジュバ近郊の教員養成所の視察

 日本は,南スーダンの国民統合と民主化を推進するためのメディア支援も行っています。南スーダン・テレビ(SSTV)の報道や番組の制作能力を強化するともに,国営放送から公共放送への移行を支援するものです。先日,当地を来訪中の6名の専門家チームからお話を伺う機会がありました。NHKの海外支局長,ディレクター,社会部記者,技術者など各分野での経験を積まれた方が持ち前のノウハウを提供し,機材供与もあわせて行うもので,テレビ番組の質の向上に大きく役立つものと感じました。
 
SSTV職員とJICA専門家 SSTV職員によるNHKスタジオ見学
SSTV職員とJICA専門家 SSTV職員によるNHKスタジオ見学

 2013年12月に発生した政治危機の影響で,南スーダンでのJICA支援は,現在ジュバのみに縮小されています。今後,全土で平和と治安が回復されれば,JICAの支援も再び全土に拡大することができます。開発への取組を強力に推進するためにも,南スーダンの政府と国民をはじめとする関係者の努力により,この国に一刻も早く平和が回復するよう心から願っています。