南スーダン通信 A Letter from the Ambassador of Japan to South Sudan
第8回 南スーダンの人々の安全を確保する警察支援
南スーダンの紛争解決合意を実施に移す上で,最初の課題の一つが国内の治安を維持する枠組の確立です。先週出席した行事では,主賓の南スーダン政府首脳から,「全てを産む母親は,平和と治安である」という力強いメッセージを聞きました。人々の安全が確保されなければ,何事も始められません。本年春に当地に着任してから,このことを最も強く感じています。
その中で,日本が行ってきた南スーダンの警察支援は,この国の人々の生活を大きく改善してきました。日本では全国津々浦々に「110番」があるのが当たり前ですが,新独立国の南スーダンにはそれが全く存在しませんでした。そこで,日本は国連開発計画(UNDP)と協力して,首都ジュバでの緊急電話センターの導入を支援しました。電話番号は「777番」です。
警察は自ら要員と車両をやりくりし,ジュバ市は場所を特定するための住所表示を新たに整備し,電話会社は緊急電話代と機材の点検補修サービスを無償で提供し,更には急患の緊急輸送も併せて導入するなど,官民連携の一大プロジェクトになりました。
この「777番」は,昨年7月15日から実施に移され,犯罪や暴力行為への対処,緊急産科治療の搬送など,既に一般の市民に不可欠の存在となっています。日本とUNDPは,来年にも第二の都市ワウに「777番」を導入できるよう,警察の取り組みを引き続き支援しています。
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ジュバ緊急電話センターの交換手 | 緊急電話センターの啓発シール |
更に,南スーダン警察の要請に応えて,コミュニティ警察の取組,そして女性や子どもなど弱い立場にある人のための特別保護ユニットを国内各地で展開するための支援も。UNDPと連携して行っています。先月,ワウ市を訪問して実施状況を視察してきました。
コミュニティ警察は,各地区の警察幹部が,所轄内の各コミュニティや女性グループの代表者と定期的に会合の場を持ち,その時々の犯罪発生状況や対策について話し合うものです。予算や人員の制約から日本のような「交番」は設置できませんが,警察とコミュニティの間の情報交換や信頼醸成により,犯罪件数が目に見えて減少しているとのことでした。
特別保護ユニットは,女性や子どもなどが犯罪や暴力行為に巻き込まれたケースに対応するために,新たに作られたものです。ワウ北部にあるムクタ警察署では,女性警察官のユニット長から,年初から7月までに57件の女性等への犯罪・暴力事件に対処し,29人の子どもを保護したとの報告があり,既に大きな成果を上げていることを嬉しく思いました。しかし,警察署には留置所が1つしかなく,男性,女性,子どもを一緒に入れざるを得ない状況にあるとの訴えを聞いて,今後も着実な改善が必要と感じました。
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ワウ市内の警察コミュニティ会合への出席 | ワウ市北部警察署で特別保護ユニット長と |
今後,南スーダンが平和と繁栄の実現に向けて国づくりを進めるためには,(1)新独立国としてのビジョンの確立,(2)各種制度の構築,そして(3)安定した経済運営の3つが鍵となるとの意見を聞いて共感しました。日本はいずれの分野でも,南スーダン自身が主導する取組を支援しています。
紛争解決合意の実施が本格化する中で,これら全ての基盤となり,国民の日々の生活に直結する安全の確保に向けて,引き続き南スーダン警察の努力を後押ししていきたいと思います。南スーダンは,まだ新たな一歩を踏み出したばかりです。これから10年後,20年度に,全国各地に「777番」が広まり,人々の信頼を得て弱者を守る警察が確立することを願っています。